貴方の今していた事を小説っぽく書く
『薬をください』
夏が近いというのに肌寒さに体を震わした。
仕事から帰る道すがら、歩道横の花壇に咲くアジサイに目を奪われた。梅雨時期に多い台風に見舞われた週末を思い出し、鳥肌の立った腕を擦った。
体があまり言うことを聞いてくれない。頭も痛みを発している。
暖かい日が続いたと思ったら、季節を逆戻りしたかのような寒さ。
真夜中、作業に明け暮れる日々を過ごす私はうまく対応しきれていない。薄着のまま床冷えに身震いしてもパソコンの前から動かない私は、案の定風邪を引いてしまったようだ。
だが、やらなければいけない仕事が山のように溜まっている。期限は待ってはくれないのだ。
書かなければならない作品がフォルダの中に埋まっている。朽ちてしまわないうちに完成させねばならないのだ。ネタも生モノだということを忘れてはいけない。
そして、観戦しなければならない試合がある。試合はたった一度きりなのだ。何度も感動的なシーンに出会えるわけではない。
買ってきた夕食の具材をキッチンに並べてみても、手は一向に動かない。
風呂を洗おうとバスルームに足を踏み入れたが、定まらない視線は、窓の外から離れない。
脳が動かないのだ。手足の動かし方を忘れてしまったかのように、私の体は私の物ではなくなった。
なんとか作った粗末な夕飯をつまみ、苦い薬をのどヌールスプレーで飲む。
どうにも頭が動かないが、無理矢理にでもキーボードを打ち続ける。
ああ、何ということか。
仕事をするのではなかったか。
作品を書くのではなかったか。
試合を観るのではなかったか。
何ということだ。
私は今何をしている?
私の目の前のパソコンのモニターには「お題に挑戦」という文字がタイトルの中に優雅に佇んでいた。
すべては風邪のせいだ。私を犯すアホという名のウィルスのせいだ。
バカにつける薬はないというが、アホに効く薬はないものか。
――お粗末様でした。
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